願わくは花の下にて春死なむ そのきさらぎの望月のころ
とは西行の有名な歌ですが,ここで取り上げるのはもちろん,西行はほぼこの歌のとおりに死んだというメジャーな話ではありません。
内田康夫センセの作品のプロローグで台風が描かれることがあります。たとえば,『平家伝説殺人事件』では「伊勢湾台風」(1959年)が,『箱庭』では「リンゴ台風」(1991年)が描かれています。『華の下にて』のプロローグにも台風が描かれており,しかも「台風17号」と書かれているのですが,しかし何年の17号なのかはわかりません。そこで推理してみました。
御母衣ダム建設の監視小屋でのできごとなので,時期は1959~1960年と思われますが,1959年の17号は石垣島の東海上あたりでふつうの熱帯低気圧に変わっていますし,1960年の17号は台湾に上陸しました。ちょっと時期はズレますが,1958年の17号は9月25日18時に和歌山県に上陸し,死者・不明45人などの被害を出しています。しかし,「死者の数は四百人を超えた」とあるので,これも違うようです。17号は実は15号の間違いで1959年の台風15号,すなわち「伊勢湾台風」だと考えるのがもっとも無難のような気がしますが……。
なお,御母衣ダムといえば建設によって水没する村から移植された荘川桜が有名で,この作品のバックグラウンドのひとつになっています。