1949年4月3日,前年からはじまった夏時間の2年目がスタートしました。
4日付朝日新聞より――:
冬オーバーで花見の宴
こたつで迎えた“夏時刻”
北海道では雪まで降った
きのう三日の日曜から幕をあけたサマータイムは,名にそむいてとんでもない寒さ北は北海道から南は九州まで寒くて眠い一日だった――札幌では零下六度
4日付毎日新聞より――:
三日の第一日曜はサマータイムであけた。上るはずの水銀柱が低気圧のいたずらでぐーんと下り,富士山に雪が降る, 帯広は零下九度平年より六,七度低い九州はお日様が出たのが朝七時,東京は平年より二度三分低い三度六分, 咲きそめた上野の桜もつぼみを閉じるという冬姿の夏時間初日だった。
こんなこともあり,夏時間は不評で,1951年を最後に廃止されました。導入してはならんといういい教訓でしょう(笑)
次の表は,いくつかの地点における今年の夏至の日(6月21日)における日の出・日の入りの時刻と昼の長さです(国立天文台HPより)。
地名 |
日の出 |
日の入り |
昼の長さ |
根室 |
03:37 |
19:02 |
15:25 |
札幌 |
03:55 |
19:18 |
15:23 |
東京 |
04:25 |
19:00 |
14:35 |
鹿児島 |
05:13 |
19:26 |
14:13 |
那覇 |
05:37 |
19:25 |
13:48 |
昼の長さだけを考えれば,北にある北海道では導入するとウレシイことになりそうです。しかし,1時間では効果がうすく,2時間くらい早める必要があります。
東京では,通勤時間を考えると,あまりウレシイことにはなりそうもありません。涼しい朝のうちに仕事をはじめられる……という話もありますが,1時間で何℃違うのか,考えてからいってほしいものです。それに,この理屈どおりだとすると,まだ暑いうちに帰宅することになり,家での冷房の使用量が増えるのではないでしょうか。
九州・沖縄では夏至前後の1〜2か月くらいはウレシイことになるかもしれません。しかし,その代償として,表からではわかりませんが,夏至前後の1〜2か月を除き,朝の暗いうちに通学・出勤するハメになります。夏休みも,薄暗い中で「ラジオ体操第一,よ〜い!! ♪チャンチャーラチャンチャンチャンチャン……」となるでしょう。
というわけで,かなりおおざっぱなデータではありますが,日本では導入してもウレシイことにはなりそうもないということがわかるでしょう。
あと,忘れてはいけないのは,日本の現状の労働慣習のまま夏時間を導入しようものなら,出勤が1時間早くなり,退社は今と変わらない……というような事態になることはミエミエだということです。
サマータイムは省エネになるという試算もあるようですが,私が以前見た試算では,仮定の上に仮定を重ねても0.1%程度の“節約”にしかならず,ふつうはこれを誤差といいます。一方で最近では↓のような研究もあります。
夏時間を採用するとエネルギー消費量は逆に増える、米経済学者 – Technobahn
夏季に時間を早める夏時間(Daylight Saving Time)は欧米では省エネにつながるとして制度化されているが、夏時間を採用しても期待した程、省エネにはつながらないばかりか、却ってエネルギー消費量を増やしてしまうという事実が、米カリフォルニア大学サンタバーバラ校のマシュー・コチェン(Matthew Kotchen)教授を中心とする研究グループが米経済学会の会合で発表した研究成果によって明らかとなった。
ところで,日の出(日出),日の入り(日入),昼,夜って何なんでしょうか。
まず,“日出”と“日入”は,「明治三十五年文部省告示第百六十五号」で
太陽面最上点ノ地平線ニ見ユル時刻ヲ以テ日出入時刻ト定ム
と定められています。常識的には日出から日入までが昼,日入から日出までが夜ですが,私が調べた限りでは法律的にはとくに定められてはいないようです。
“日出”は,「刑事訴訟法」第116条に登場します。
日出前,日没後には,令状に夜間でも執行することができる旨の記載がなければ,差押状又は捜索状の執行のため,人の住居又は人の看守する邸宅,建造物若しくは船舶内に入ることはできない。
2 日没前に差押状又は捜索状の執行に着手したときは,日没後でも,その処分を継続することができる。
ここで使われている“日没”は“日入”と同じなのでしょうか? また“夜間”とはいったいいつのことなのでしょうか? アイマイさがある表現です。
“日出”は「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」(風俗営業法)第28条第4項でも,“深夜”を定義するために次のように使われています。
都道府県は,……(中略)……深夜(午前零時から日出時までの時間をいう。以下同じ。)における営業時間を制限することができる。
太陽が昇るまでは“深夜”なわけですね。
太陽が沈んだあとや太陽が昇る前の空の明るい状態が,“薄明”です。通常,太陽が地平線下何度にあるかによって次のように分けられています。
6度以内 |
常用薄明または市民薄明 |
通常の活動ができる |
12度以内 |
航海薄明 |
海で水平線が見える |
18度以内 |
天文薄明 |
天文観測に適さない |
どうでもいいですが,風俗営業法上では“明るい深夜”という状態が存在します。
太陽が沈まないか,薄明のまま日の出を迎えるのが“白夜”です。白夜の反対が“極夜”です。気象関係者は極夜渦とか極夜ジェットとかいった用語でそれなりになじみがあるのですが,一般にはあまり使われていないようです。
白夜が国内で知られるようになったのは,1952年のヘルシンキ五輪がきっかけだったという話もあります。一方で,白夜を有名にした「知床旅情」という歌で誤用されているのは有名な話です。はるかクナシリに白夜はありません。