AD1991/03/18 17時03分,森山(旧姓野田)香子三段が三段リーグ最終戦で雨宮秋彦三段を破り,女性としてはじめて四段昇段を決める
「ふたりっ子」での話です。
「ふたりっ子」は1996年10月7日~1997年4月5日に放送されたNHK連続テレビ小説,早い話がNHK朝ドラです。いろんな要素がありますが,メインはダブルヒロインのひとり野田香子が将棋のプロ棋士を目指す――というストーリーです。
上図は,先手雨宮三段の▲8六飛まで。控え室で観戦していた香子の師匠の米原公紀永世名人でさえ「ありませんな」とさじを投げた局面です。同室に待機していた記者たちは「森山投了や~!!」と駆け出していきます。
だがしかし,そこはドラマ。緊迫感をあおるBGMとともにおもむろに放った香子の一手は誰の読みにもなかった△8一玉。米原「ありましたな」
このあと,▲6一と △7二金 ▲8三銀 △8五歩 ▲7四金 △8三金 ▲同金 △3九銀のように進んだところで先手雨宮三段が投了,史上初の女性プロ棋士誕生となります。1991年3月18日17時3分,移動性高気圧におおわれたおだやかな夕方のことでした。
ところでこの場面,ノベライズ版では時刻がなぜか18時28分になっています。非常に気になったので以前理由を考えたことがあります。↓にも書きました(笑)
http://www.notenki.net/labo/hutarikkoold.html
これは日没時刻に関係があります。関西将棋会館の緯度・経度を使って計算すると,1991年3月18日の日没時刻は18時08分となります(上のリンク先を書いたときは特定の場所の緯度・経度は簡単にはわからなかったのですが,今はネットで公開されている地図からすぐわかります。いい時代になりました(笑))。第89回の放送では,香子が雨宮を破ったときにはまだ西日が残っています。だから時刻を変えたのだと思います。17時03分というのはもしかするとこの場面を収録した時刻なのかもしれません。
さて,「8一玉」といえば,1972年の第31期名人戦七番勝負第2局での中原誠十段-大山康晴名人戦が有名です。
下図は111手目,先手中原の▲7三飛までの局面。
▲7三飛と王手した時点で,控室は中原勝ちの結論を出し検討を出し検討を打ち切っていた。が△8一玉が大山しか読んでいなかった盲点の一手で中原は差し切ってしまう
(週刊将棋編『不滅の名勝負100』より。なお,引用文中の余計と思われる「検討を出し」はσ(^^;)のタイプミスではありません(笑))
局面は違っても史上に残る受けの絶妙手と同じ指し手「8一玉」を香子に指させることで,ドラマの中盤のクライマックスに彩りを添えたのでしょう。もっとも,視聴者に「8一玉」の意味のわかる人がどのくらいいたかはわかりませんが。もちろん私もわからなかったひとりです(^^;)
ところがとんでもないことに,この重要な場面のドラマの初回放送では,上の図盤面で「6二」にあるはずの金がなんと「5二」にあるという大ポカをやらかしました。これでは絶妙の受けは成立しません。
ちなみに,1997年秋の再放送以降ではリハーサルか何かの正しい盤面に差し替えられています。2006年のホームドラマチャンネル(スカパー! 362ch)での放送でもちゃんとした位置になっていました。
以上,この文章中,絶妙手とかエラそうに書いていますが,ほとんど受け売りで,何もわかっちゃいません(笑)
※これは2007年3月18日のmixi日記ほとんどそのままです。
《参考文献》 週刊将棋(編), 不滅の名勝負100. 毎日コミュニケーションズ, 1995.