その年の秋から冬にかけてはじめて吹く北風を「木枯らし1号」とよぶことがあります。
「木枯らし1号」を公式に発表しているのは東京(関東)と大阪(近畿)だけですが,基準が微妙に違います。“冬型の気圧配置のときにその年はじめて吹く(瞬間)風速8m/s以上の北~西北西の風”というのは共通なんですが,期間は関東では“10月半ばから11月末まで”,近畿では“おおむね二十四節気の霜降から冬至まで”となっています。今日は10月19日ですから,関東の基準では期間内ですが,近畿の基準では期間にはいっていません。ここ2,3日のうちに大阪でこのような風が吹いたとしても“フライング”となり,木枯らし1号とは認められません。
「木枯らし1号」の平年日は現在は発表されていません。要するに,発現しない年もあるし,平年日に科学的な根拠がないから,ということらしいです。春一番も同様です。
ただ,科学的な根拠云々を別にして平均をとると,だいたい二十四節気の立冬前後,11月7日ごろになるようです(私が計算したわけではありません)。
1号があれば当然2号,3号,……もあると考えるのがふつうの感覚でしょう(ヤッターマンには1号と2号しかいませんが)。ところが,木枯らしに関するかぎり,2号,3号,……は聞いたことがありません(ただし,あとに書くように“2号”については1回だけ何かの間違いで使われたと思われる例を見たことがあります)。かなり不自然です。考えるまでもなく,「木枯らし1号」なんてそもそもからしてセンスのかけらもないネーミングですよねえ。
「木枯らし1号」がいつごろから使われたのかわかりませんが,新聞記事の見出しとしての初登場は,σ(^^;)が調べた範囲では1975年11月11日付朝日新聞夕刊です。ただ,1973年11月2日付朝日新聞夕刊掲載の倉嶋厚さんのコラム「お天気衛星」のタイトルが「木枯らし1号」なので,このころにはすでにぼちぼち使われていたのでしょう。
今はなき月刊誌「気象」に掲載されていた「天気図日記」では意外に早く,1957年10月17日に登場しているように見えますが,「天気図集成」に収録する際に編集でつけ加えられたものかも知れません(未確認)。前年の1956年11月16日には「木枯らしNo.1」ということばも見えます。
「木枯らし第1号」の登場はもっと早いです。
1955年10月9日付朝日新聞に次のようにあります。
……この寒さは全国的なもので,八日は九州で三,四度,北海道で五度,中部山岳地帯で五度,中国近畿地方では六,七度も平年より低かった。西高東低という冬型の気圧配置だそうで,七日晩から全国各地に吹き出した北風は冷たい季節風のはしり。つまりは〝木枯らし第一号〟だったわけで,この吹きはじめも平年より一月近く早いと中央気象台ではいっている。
同じ日の天気について,「天文と気象」の「10月の天気図」では8日の日記に次のようにあります。
北日本に低気圧が発達,大陸高気圧が押し出してきて冬の季節風型があらわれはじめた. 武蔵野にも〝木枯らし〟第1号がふき初めたが,これは平年より1ヶ月も早い. 各地に初霜,初雪しきり.
ただし,10月8日は現在の基準では“フライング”であるため,木枯らし1号とは認定されていません。この年の木枯らし1号の発現日は10月30日となっています。
「天気図日記」で「木枯らし2号」が使われた例がひとつだけあります。1966年10月29日に「きょうは関東にも木枯らし2号が吹くとみられたが云々」とあります。ただ,まだ木枯らし1号も吹いていない時期だけに(この年の発現日は11月15日),意味不明です。
東京の木枯らし1号の最早日は10月13日(1988年),2番目は10月17日(1957年),3番目は10月18日で,1986年と2000年に観測されています。(気象庁天気相談所調べ)