アリバイに使われかけた“台湾坊主”(1974年)

台湾坊主というのは,このブログでは何回も登場してきたとおり(これからも登場するでしょう(笑)),台湾近海で発生する低気圧のことです。新聞でも好んで使われ,もしかすると台風の次に有名な総観スケールの気象現象だったかも知れません。1975年3月に気象庁が「台湾低気圧」にいいかえるように部内に指示したことがきっかけで,新聞でも使われなくなったようです。ただ,あくまで気象庁では使わないというだけです。私のような部外者が使う分にはまったく差し支えありません。

さて,1986年6月16日,ロッキード裁判丸紅ルート控訴審の最終弁論が行なわれました。その弁護側の最終弁論に,なんと台湾坊主が登場します。

16日付朝日新聞夕刊より,弁論要旨:

【第三回(49年1月21日)の授受や搬送時間に関する原判決の不自然性,不可能性】

当日の気象は「台湾坊主」といわれる悪天候で,都内では強風を伴うみぞれや雪が降っていた。このような日に授受を行うのは不自然で,現実性に欠ける。

3回目の現金受け渡しが行なわれたとされる1974年1月21日,つまり35年前の今日,低気圧が発達しながら本州付近を通過していました。ただし,この低気圧は華中から東シナ海を通ってやってきたもので,残念ながら台湾坊主ではなく,いうなればニセ台湾坊主あるいは台湾坊主モドキです。

この低気圧のおかげで関東から東北地方にかけて雪が降り,前年11月11日以来71日間続いていた東京の無降水記録はやっと終息しました。

ところが,当初の予想以上に雪が降り,東京ではとくに21-22時の1時間に3cm積もる“短時間強雪”になりました。この影響で首都圏の交通は大混乱,東海道線,横須賀線,京浜東北線,常磐快速線,総武線などが相次いでストップ,首都高も22時20分に全面閉鎖となりました。

“台湾坊主”の悪天だからカネの受け渡しは現実的でないというのは,当時は“台湾坊主=荒天”の図式が成り立っていたとしてもバカバカしい論拠ですが(実際荒天だったわけですけど),メインはそこではなく,いわゆる榎本アリバイの補強のようです。第一審で退けられた榎本アリバイについて,独自の走行実験に基づいて次のように主張しています。

弁護人の実験によると,この往復にかかる自動車走行の時間だけで,高速道路利用の場合に六十六―八十二分,一般道路だと六十―八十二分を要した。本件当日は悪天候で積雪もあり,通常日の何倍もの渋滞があったことは容易に推定でき,一審認定によっては田中邸への現金搬入は不可能。

これに対する検察側の弁論要旨は次のようになっています。

第三回授受に関し,参院議員会館往復の時間を根拠にした弁護人主張は,本件当時とは交通事情が格段に異なる現時点の走行実験をもとに一審判決を論難するもので,失当である。また,当時,降雪があったことは認められるが,高速道路が通行不能であったとの立証はない。

上記の“ニセ台湾坊主”によるアリバイ主張が判決ではどのように扱われたのでしょうね? 今さら興味もありませんが。

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