注目されなかった台風

台風は注目度がきわめて高い気象現象だと思いますが(とくに東京に近づいてくる台風は),2001年9月の台風15号と16号は,大きな被害を引き起こした割にはあまり注目されませんでした。防災の日の訓練という名の儀式をブッつぶした歌舞伎町の風俗ビル火災と,異国で起こったいわゆる9.11のおかげです。

この2つの台風を取り上げます。

2001年9月4日09時,南鳥島の南海上で台風15号が発生しました。発達しながら北上し,11日09時半ころ神奈川県鎌倉市付近に上陸,東京都から茨城県北部に進み,死者・不明8名,負傷51名,住家全半壊・一部損壊300棟,床上浸水183棟,床下浸水1202棟などの被害を出して海上に去っていきました。

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保存してある当時の新聞記事の一部を引用すると――:

 台風15号は11日午前9時半ごろ、神奈川県鎌倉市付近に上陸、首都圏を直撃した後に太平洋沿岸を北上しており、12日未明には岩手県沖に達する見込み。この台風による死者は5人、行方不明は3人となった。

・・・・(中略)・・・・

 首都圏を直撃した台風15号は、豪雨や強風のツメ跡を各地に残しながら、福島県から太平洋上に抜け、東北地方の沿岸を北上している。関東を中心に死者・不明者は計8人にのぼったほか、橋が流されたり、堤防が決壊するなど被害は広範にわたり、交通機関にも大きな影響が出ている。

 11日午前11時40分ごろ、東京都杉並区荻窪2の増水した善福寺川で男性1人が流されたと119番通報があった。東京消防庁の救助隊が現場付近を捜索している。7メートルの危険水位を超え、2年ぶりに洪水警報が出された多摩川では、堤防上を走る東京都大田区の多摩堤通りが同夜まで通行止めになり、地元消防団員らが支流への水門を閉じ、約20台のポンプを使って排水作業にあたった。

 また、同区の環状8号線・羽田空港トンネル内では、同日午前、1メートル前後の冠水のため車約30台が立ち往生。ドライバーらが全員車外に脱出した。

 一方、9日夜から運転を見合わせていた長野新幹線は、雨量計が規制値を下回ったため、11日午後3時過ぎから上下線とも運転を再開したが、山形新幹線は始発から福島―山形間が運休。在来線でも中央線、青梅線、両毛線の一部区間などで運転の見合わせが相次いだ。

 空の便は台風16号の影響も受けて、同日夕までに全日空が118便、日本航空65便が欠航。国際線では、仙台―ホノルルを結ぶ2便が欠航した。

 道路では、上信越自動車道、関越自動車道などの一部区間が通行止めになったほか、土砂崩れの影響で国道20号の一部区間が通行止めになったため、中央自動車道大月IC―勝沼IC間をう回する車両に対し、通行料金の無料措置がとられた。

 長野県上田市では同日午前8時45分ごろ、千曲川にかかる大石橋の橋脚の1つの土台部分が増水で数メートル流され、欄干などが折れ曲がるようにして落ちた。橋は土台部分の浸食が見つかったため、先月9日から全面通行止めとなっており、けが人はなかった。(読売新聞)[9月11日22時1分更新]

同じころ,6日09時に宮古島近海で発生した台風16号が沖縄付近を迷走していました。

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1回目の本島接近:

台風16号、本島強風域に/15号接近の恐れ

 台風16号は六日午後九時現在、久米島の西南西約八〇キロの海上にあって勢力を強めながら時速一〇キロで北東に進んでいる。沖縄本島地方は同日午後十時すぎ、強風域に入った。台風は七日明け方、本島地方に最接近し、昼ごろには強風域から抜ける見込み。

 七日夕方までの二十四時間雨量は多いところで、石垣島地方で一〇〇ミリ、宮古島、沖縄本島地方は一五〇ミリに達する見込み。最大風速は久米島で二〇メートル、本島中南部、北部は一八メートルに達する。

 沖縄気象台によると、台風の中心気圧は九九六ヘクトパスカル、中心付近の最大風速は一八メートル。中心から一五〇キロでは一五メートル以上の強風が吹いている。七日午後九時には奄美大島の西約二八〇キロを中心とした半径一一〇キロの円内に達する見込み。

 強い台風15号は六日、日本列島の南海上を西に進んだ。今後、沖縄などに接近する恐れがあるほか、急に進路を変え本土に接近する可能性があるとして気象庁は厳重な注意を呼び掛けている。

沖縄タイムス 2001/09/07(Fri)

本島接近2回目:

中部に集中被害/台風16号
民家131軒が床上浸水/道路陥没、土砂崩れ相次ぐ

 沖縄本島の東海上で停滞、迷走を繰り返していた台風16号は八日未明、本島を再通過して東シナ海に入り、八日午後九時現在、久米島の北の海上をゆっくりと西北西に進んでいる。沖縄市付近に再上陸する直前、暴風雨域が発生、中心付近の強い雨雲で豪雨となり、中部一帯は床上浸水や道路陥没、土砂崩れなど大きな被害が集中的に発生した。

 具志川市平良川では県道10号が陥没。沖縄市などで民家百三十一軒が床上浸水し、住民が一時避難した。午前二時四十二分には那覇市で四一・二メートルの瞬間最大風速を記録した。台風は今後も迷走する可能性があり、沖縄気象台は久米島が九日にも暴風域に入る恐れがある―と警戒を呼び掛けている。

 県警などによると、台風発生時から八日午後七時までの被害状況は、負傷者二人、建物の一部損壊四件、床上・床下浸水百四十八件、土砂崩れ十三カ所、陥没を含めた道路損壊七カ所、道路冠水三十一カ所、船舶被害二十九隻など。

 一時間当たりの最大雨量は沖縄市胡屋で一〇一ミリを記録。胡屋地区の降り始め(五日夕)からの雨量は四四二・五ミリに達した。

 台風は八日午後九時現在、久米島の北北西約一一〇キロ、北緯二七度一〇分、東経一二六度二〇分にあり、ゆっくりと西北西に進んでいる。中心気圧は九七五ヘクトパスカル。中心付近の最大風速は三〇メートル。半径四〇キロ以内では二五メートル以上の暴風域、半径一九〇キロ以内では一五メートル以上の強い風が吹いている。九日午前九時には久米島の北西約一三〇キロ、同日午後九時は同島の西北西約一七〇キロに達する見込み。

2001/09/09(Sun) >沖縄タイムス

その後,久米島付近で停滞。このため久米島は30時間以上も暴風域の中でした。

台風16号、久米島で停滞/土砂災害の危険性

 非常に強い台風16号は十二日正午現在、久米島を三十時間以上も暴風域に巻き込んだまま、勢力を保ち久米島の東海上で停滞している。久米島で同日午前二時三十三分、最大瞬間風速五〇・八メートル、那覇で同六時四十五分に三〇・六メートルを観測。久米島を中心に周辺離島で停電し、空の便が一部欠航、本島ではバスが午前中運休、沖縄自動車道は全面通行止めとなるなど、県民生活に混乱が続いている。(6面に関連) 沖縄気象台によると、本島西方の離島では五日の降り始めからの雨量が六〇〇ミリを超え、過去数年間で最も土砂災害の危険性が高まっている。五日降り始めからの各地の雨量は、渡嘉敷六五〇ミリ、久米島六三二ミリ、那覇四九六ミリで、久米島では九月の平均降水量(約一六四ミリ)の三倍以上に達している。

 今後も本島中南部を中心に発達した雨雲が断続的にかかり、激しい雨が降る見込み。予想される最大風速は久米島で四五メートル、本島で三五メートル。

 台風は中心気圧は九五五ヘクトパスカル、中心付近の最大風速は四五メートル。中心から七〇キロでは二五メートル以上の暴風が吹いている。十三日正午には久米島の北北西約六〇キロにあり、半径一一〇キロの円内に達する見込み。

久米島30時間以上も暴風域/台風16号

 迷走して三十時間以上も久米島を暴風域に巻き込んだまま、久米島の東海上に停滞したままの台風16号。勢力を増して強い風雨が断続的にあり、渡名喜村で学校の体育館の屋根が吹き飛んだ。離島で停電や水道がストップ。警戒する役場職員は「風が強くて外に出られない」と不安げだ。一部で電話も不通となり、本島と周辺離島の公立小中高校では二日連続の休校、本島では午前中バスが運休、空、海の便とも欠航や遅延が相次いだ。生活に影響が出ている。

 瞬間最大風速五〇・八メートルを記録した仲里、具志川両村では、午前九時現在、人身や家屋などの被害は報告されていないものの、サトウキビを中心とした農作物への影響が懸念されている。

 仲里村役場総務課によると、キビ畑やキク畑で冠水が見られ、「甚大な被害が出た一九九三年の台風13号に匹敵する風雨で、かなりの被害になるのではないか」と説明。具志川村総務課でも農作物への影響を心配しているが、風雨が強く巡回に出られないため状況を確認できずにいる。

 座間味、渡名喜、渡嘉敷の三村でも風雨が強く、役場職員はパトロールができない状態。渡名喜村では小中学校の体育館の屋根が全部吹き飛び、渡嘉敷村では村道の阿波連線でがけ崩れがあり、一部で一方通行になっている。座間味村の阿嘉、慶留間島では電話が不通となっている。

2001/09/12(Wed) 沖縄タイムス

そして大きな爪痕を残して,ようやく去って行きました。

離島に深刻な被害/ライフライン各地で寸断/台風16号

 3日間にわたって久米島、慶良間などを暴風雨に巻き込んだ台風16号がようやく去った13日、復旧へ向けた動きが始まった。災害救助法を適用した渡名喜村には自衛隊ヘリが生活物資が運び、沖縄電力もチャーターヘリで島へ渡り、復旧作業に取り組んだ。水、電気などライフラインが至るところで寸断され、家屋被害、がけ崩れなど台風のつめ跡が生々しく残る島々。渡嘉敷村では道路が崩落、阿波連集落が孤立状態に。渡名喜村でも家屋浸水した水はまだ引かない。渡名喜小中学校体育館も使えなくなった。島が日常生活を取り戻すには、まだ時間がかかりそうだ。また、農作物の被害も全県で7億3200万円に上った。

渡名喜村・被害家屋90軒/15世帯29人避難

 渡名喜村では発電施設が被害を受け、11日午後から停電が続き、淡水化施設が故障したため断水が続いている。同村役場の又吉栄さん(38)は「浸水などの被害家屋は約90軒、全世帯の半分近くになる。下水処理施設がうまく動かず、水洗トイレが使えない状態。早く電気が復旧してほしい」と疲れた様子だった。夜はろうそくと懐中電灯で過ごしている。同村役場によると15世帯29人が村老人福祉センターに避難中だ。

ヘリで飲料水、毛布など輸送/災害救助法で自衛隊

 渡名喜村に災害救助法を適用したことを受け、県の要請で13日、自衛隊ヘリが五回にわたって飲料水約5トン、毛布百枚、衣類約100着、電気復旧のための資材や電気工事技術者など29人を渡名喜村へ運んだ。

 沖縄電力は同日、渡嘉敷島と阿嘉島にも独自にチャーターしたヘリで電気復旧のための資材や技術者を運び、同日から復旧作業を始めた。

久米島・土砂被害22件/農作1億4000万

 久米島では11日からの長時間の雨で床上浸水が五棟、床下浸水六棟の被害が出た。仲里村では土砂で道路ののり面や路肩が崩壊する被害が22件あった。

 仲里村経済課によると、農作物への被害も大きく、被害総額は約1億4000万円に上ると予想している。サトウキビを生産している吉永安扶(67)=仲里村真我里=さんは「2月に春植えをした分は梢頭部が折れてしまい、収穫量がかなり落ちる。成長が良く、今年は豊作型だと喜んでいたのにがっかり」と落胆した。

渡嘉敷村・村道の交通遮断/旅客80人足止め

 渡嘉敷村役場によると、13日午後7時現在で、床下浸水三軒、地滑りなど十カ所に被害があった。四地区の停電が復旧していない。

 12日夜に降った大雨の影響で、村道阿波連線の路肩が落ちて交通が遮断、水道の送水管が破損。役場によると「同日中の復旧作業のめどは立たず、阿波連地区に送水できずに、配水池の水で対応した」と話している。約80人の観光客が足止めを食った同地区では14日、漁船で渡嘉敷港に客を移送し、住民へ物資を運ぶ予定だという。

座間味村・住宅損壊59棟/浸水24世帯

 座間味村役場によると13日午後7時までに、強風時のドア開閉で60代男性が軽傷を負った。住宅は全壊九棟、半壊30棟、一部破損20棟、床上浸水三世帯、床下浸水21世帯、船舶の沈没四隻、がけ崩れなど六カ所、約200世帯の電話が不通となっている。

久米島など停電続く

 沖縄電力広報室によると13日午後7時現在、沖縄本島周辺の離島で停電していた500世帯のうち、久米島、渡嘉敷島、座間味島、阿嘉島、慶留間島、渡名喜島事業所などを除いた一般世帯の停電が解消したが、久米島で40世帯、渡名喜島でも多くの停電世帯が残った。渡名喜島での全面復旧は15日の見込み。NTT西日本那覇支店によると13日午後8時現在、座間味村の阿嘉島、慶留間島のほぼすべての世帯にあたる190回線の電話が不通になっている。

45便が欠航1600人影響

 台風16号の影響で13日、那覇―久米島など離島路線を中心に45便が欠航し、1664人に影響が出た。14日の運航については琉球エアーコミューターが粟国、慶良間、久米島については気象状況を確認した上で当日に運航を決定する。ほかの各社定期便は全路線平常運航の予定。船舶も当日の天候を見極めて運航を決める。

2001/09/14(Fri)
琉球新報

こののち台湾で再び迷走することになります。

ちなみに,沖縄を迷走した台風といえば,1924年の「八月六日ヨリ二十三日ニ至ル颱風」があります。進路を「気象要覧」から要約すると,

6日小笠原の南西に現われ北西に進み,紀州はるか沖で西に向きをかえ,10日沖縄島の北部をかすめて12日には少し南に移り宮古島付近に到ったが,これより過去の経路をほとんど逆進して14,15日の両日再び沖縄島を過ぎてついに大東島付近に引き返し,17日北西に向きをかえ,奄美大島付近を経て肥前五島の外側をまわり,20日壱岐・対馬の間を,21日隠岐を,22日青森県を経て23日千島に去る。6日出現から23日千島に去るまで18日間を要し,大東島・宮古島の往復に1週間かかった。

那覇では「強風約百時間,烈風約百二十時間,颶風十二時間」に及びました。

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[2020/09/11] 切れていた画像へのリンクを修正しました。