1979年10月4日15時,トラック島の南東海上に弱い熱帯低気圧(当時の呼び名。今流にいえばただの熱帯低気圧)が発生,6日15時には台風20号に昇格しました。
台風には気象庁がつける何号という番号のほかに米軍の合同台風警報センターJTWCが名づける名前がありましたが(今はいわゆる「アジア名」に変わっています),前年まではすべて女性名でした。有名なところではカスリーン,アイオン,キティ,ジェーンなど。洞爺丸台風は15号よりもむしろマリーとよばれていました。しかし台風よりもはるかにおっとろしい女性団体の圧力で,男女交互に名前をつけることになり,この年の3号から男性台風が登場,20号は男性名でTIPと名づけられました。
なお,3号が男性で交互なら20号は女性になるはず……とここで気づいたあなた,スルドイです。実はおそるべき?!からくりが隠されているのです(笑)
話がズレましたが,この台風は,9日の夜から急速に発達し,12日12時と15時に沖ノ鳥島の南東海上で870mbという世界の最低気圧を記録,観測史上最強の台風になりました。
この気圧は米軍の観測機がドロップゾンデで観測した実測値です。当時は台風の中心気圧を実測していました。現在は気象衛星画像による台風中心付近の雲の形と動きからドボラック法とよばれる手法で風速を推定し,それから中心気圧を決めています。ちなみに,この手法では実際の気圧より高めに(要するに実際よりも弱く)出るのでは……という指摘もあります。
さて,台風20号TIPは19日09時40分ごろ965mbの勢力で和歌山県白浜付近に上陸,95km/hという猛スピードで本州を縦断し,23時ごろ釧路付近に再上陸しました。そのため被害はほぼ全国に及び,死者・不明111,負傷478,住家損壊7523棟,住家浸水37450棟,耕地被害25451ha,農林水産業被害1057億円などでした。
1966年の26号(いつだったかを参照(爆))以来13年ぶりに台風の暴風域にはいった首都圏は国電(懐かしい名前)や私鉄がほぼ全面運休,電話回線もパンクし,193万戸が停電,「首都圏の台風被害は「足」と「耳」を直撃」「災害に弱い大都市の弱点をさらけ出した」(20日付毎日朝刊)。
大小を問わず,このときの首都圏の駅という駅の混みようはとにかくすさまじかったそうです。ストと違って災害だから……とはじめは寛容だった乗客も,国鉄のいいかげんな対応に次第にブチ切れはじめたそうです。まあ,聞くところによると当時の国鉄の組織的な危機対応能力はほとんどゼロメートル地帯でしたし,それを引きずっているのがJR東日本やJR西日本なのでしょう。
ちなみに,この年は20号を含めて3つ台風が上陸しましたが,なぜかすべて男性名でした。